2022年9月11日(日)
丘と言っても山の麓、夜は結構冷え込んだ。なんで湯たんぽを持ってこなかったんだ。9月初旬といえどもやっぱり北海道は甘く見てはいけない。

夜中寒さと尿意で目が覚めたけどなかなかシュラフから出る勇気がない。しばらく我慢してたが、やっぱり尿意が寒さに勝ってしまって外に出てみたら月が綺麗だった。十五夜だったのかな?月がとても明るくて星はあまり見えなかったが、それを超える美しさだった。
それでもやっぱり寒い。

とりあえず日が登ってくるのをじっと待つしかないけど昨夜薪を使い切ってしまったことを後悔する。他のライダーの方は朝から焚き火をしながらお湯を沸かしていた。そういう所で経験の差が出る!次来たら絶対薪のスペアを用意しよう。

6時が過ぎてやっとお日様が山から顔を出す。助かった!日があるのとないのとではやっぱり気温が全然違うね。北海道は関東に比べて朝が早くて平地では9月でも5時過ぎには日が登ってきてたけど山だとやっぱり日の出が遅い。
もう少し暖かくなるのを待ってから支度を始めてキャンプ場を後にしたのが8時半。去年だともう100km以上走ってる時間だが、急ぐ必要は何一つない。

とりあえず西に向かって道道224号線を走ってると芦別辺りの田んぼは収穫シーズンで黄金色に美しく染まっていた。風に揺られてる田んぼの真ん中をトコトコと走っていくのはなかなか気持ちいい。幸せだな。

約80kmを走って最初の目的地の北竜町ひまわりの里に着いたが、そこには何もなかった。今年のひまわりまつりは8月21日までだったらしくてまつりが終わるとひまわり畑は完全伐採されるらしい。旅先でのイベントの日程や定休日などはちゃんと確認したほうがいいけどまたこれはこれで面白いからよしとする。

時間的にちょうどよかったのでお昼を食べに留萌の有名寿司屋蛇の目さんへ。11時5分くらいに着いたらもうすでに5組くらい待っていた。また日曜日というのもあって道内ライダーさんも続々と集まってきたので週末は営業開始時間の11時辺りに来たほうがよさそう。
留萌っていつも通り過ぎてよく分からなかったが、かなり大きくてびっくりした。たぶんオロロンライン沿いでは一番大きいんじゃないかな。北海道回ってると街の大きさの概念が変わってしまう。自分の場合は信号が2つ連続してあると大きい街に感じられるが、その基準からすると留萌は大都市!

そんなこと考えながら30分くらい待ってたら呼び出されて店内へ案内された。メニューには美味しそうなものがたくさんあってその中でも礼文産バフンウニのウニ丼があって喜んだけどお値段なんと9,860円!えぇぇぇぇ…。これはさすがに高すぎるのでお店の看板メニューの蛇の目ちらしを頼んだ。

蛇の目ちらしは11種類の新鮮なネタが入っていてボリュームもたっぷりあるし、美味しい。またセットのあら汁が具もたくさん入ってあっさりしてすごく美味しかったので絶対頼んだほうがいい。

ルートを考えると留萌から北上したほうがいいけどもう少しオロロンラインを楽しみたかったので南下して増毛駅へ。留萌駅もたくさんの観光客で賑わっていた。実はここに来たのはこれが初めて。いつもこの前の道を素通りしていた。

実は留萌市と増毛町を繋ぐJR留萌本線が2016年に廃線になってその2年後に開業時と同じ広さに復元されて観光名所になったらしい。なんとアイロニックな。孝子屋の甘えび汁も美味しそうだったが、蛇の目ちらしでお腹いっぱいだったので今回はパス。
増毛駅を出て来た道を戻ってまた北上。実は国道239号線で名寄方面に向かうつもりだったが、なんと開いてるガソリンスタンドがなくてしばらくそのままオロロンラインを走ることにした。まだ50kmくらいは走れるけど日曜日に営業しないガソリンスタンドが多いのでできるだけ交通量が多い道沿いで営業中のガソリンスタンドを探すことにした。国道239号線は正直に何もなくてガソリンがあまりないまま走ったら遭難しそうなので…。
しかし、オロロンラインは最高すぎる!これぞ北海道って感じ。初日美笛キャンプ場に行きたくて支笏湖に向かったが、船に降りてそのままオロロンラインを走って稚内に行くのが北海道バイク旅の定石な気がする。

やっと苫前で日曜日に営業しているガソリンスタンドを発見!そういえば去年もここでガソリン入れたような気がする。北海道に来ると普段当たり前に思ってることが実は当たり前ではないことに気付く。
いつもありがとうございます。
ガソリンスタンドを出てそのまま北上して遠別町から右折して道道119号線に。そのまま何もない道を走って国道40号線に入り天塩川に沿って進んいく。北海道で何もない道をたくさん走ってきたけどその中でもこの道道119号線と国道40号線は「何もないベスト・オブ・ベスト」かもしれない。本当に何もなくて休憩を取るタイミングも場所もなくてそのままずっと走っていくしかなかった。

やっと音威子府で道の駅を発見してドライブイン!そんなつもりじゃなかったのにここまで約100kmをノンストップで走ってしまった。トイレ休憩を取ってから出発。音威子府もそれほど大きい町ではないが(むしろ道内で最も人口の少ない自治体である)、道道119号線と国道40号線を走ってきたのでなんかすごい人の営みが感じられてほっとする。

国道40号線をそのまま南下して美深町へ。国道から左折して予約してある宿へ向かってるけどこんな所に宿があるのか不安になるくらい何もない。ナビを信じて恐る恐る天塩川にかかってるこの橋を渡る。

お!何もなさそうな所にちゃんと「TOURIST HOME & LIBRARY 青い星通信社」があった!実は美深町に行ったのはこの宿に泊まりたかったから。美深町が村上春樹の「羊をめぐる冒険」の舞台のモデルとされてることも青い星通信を通じて知った。
そして美深町はまた、小説家・村上春樹の代表作の一つである『羊をめぐる冒険』の舞台である十二滝町のモデルになった場所ともいわれています。作中ではこの架空の町について「札幌から道のりにして二六〇キロの地点である」と書かれ、札幌からの行程は「旭川で列車を乗り継ぎ、北に向かって塩狩峠を越え」、さらに「もうひとつ列車を乗り換え」て「東に向きを変えた」先にあると説明されていますが、これは札幌と美深(正確には美深町の仁宇布地区周辺)の位置関係とピタリと符合します。さらに主人公が最後に乗り換えたその列車が走るのは「全国で三位の赤字線」とされていますが、かつて美深町には“全国一の赤字線”といわれた旧国鉄美幸線が走っていました。そうした記述の一つひとつから、作者が明言こそしていないものの、十二滝町とは美深町であることは疑いようがありません。
実際に美深町に行ってみると小説の中で村人を十二滝町まで連れて行ったアイヌ青年の苦労がよく分かったような気がした。

また築70年は超えてるこの建物は元官舎で実際人が住んだのはそれほど長くなくずっと長い間放置されたらしい。にも関わらずしっかりその形が温存されたのは細かい礫を固めた石煉瓦で作られたからだそう。リモデリング時にも強度を持つために既存の構造は一つも変えずそのまま使ったらしい。またこの石煉瓦が独特な雰囲気を出していて村木春樹の小説の中にでも出てきそう。

中に入ると真正面に青い壁とカウンターがまず目に入る。「青」がこの宿のメインカラーなのがよく分かる。木と濃い青が落ち着きをもたらしてくれる。

左側には書斎があって本棚に本がずらりと並んでいて一面は全部村上春樹とその関連書籍で埋まっている。自由に本を取ってあのソファで読んでもいいし、部屋に持ち込んで読んでもいい。この宿にはあえてテレビが設置されてなくて本を読むのに最適されている。

また書斎の横に電話ブースくらいのサイズのスペースがあってより集中して本が読めるのと窓から通っていくJR宗谷本線の列車を見ることができる。時刻表もおいてあるけど踏切が近くにあってその音で列車が来るのがすぐ分かる。

2棟の建物があって北練がパブリックスペース、南練にゲストルームが集まっている。北練と南練を繋げる通路に写真家岡田敦さんのユルリ島の馬の写真が展示されている。ユルリ島も以前から気になっていたが、岡田さんの幻想的な写真を見ているとますますユルリ島への興味が湧いてきた。

水脈(みお/Waterway)、火影(ほかげ/Firelight)、風笛(かざぶえ/Windwhistle)」の3つのゲストルームがあって今回利用したのは火影(ほかげ/Firelight)でこの部屋のみダブルベッドで他の2つはツインベッドが置かれている。

部屋はそれほど大きくはないが、必要なものが適切な場所に揃っていて使い勝手がいい。また一つ一つそのセンスがよくて全体がきれいにまとまっている。

寝室は大きいダブルベッドがほぼ占めている。それにまた大きい窓があってそこからの景色と光が気持ちいい。カーペットや寝具類も全部青で統一されている。落ち着く癒やしの空間。

宿の前には美深町が運営している牧草地が広がっていて無作為に置かれている牧草ロールがいかにも北海道らしい風景を演出している。その景色が気持ちよくてちょいと出かける。

天塩川に沿ってつながってる土手がちょうどいい散歩道になっている。見渡せる所にあまり人工的なものがない。美深町の面積は672.1km²と東京23区よりも少し広いのにその人口は約4,600人らしい。人より牛のほうが多い。

宿のすぐ近くを線路が通っていて200mくらいの所にJR宗谷本線の紋穂内(もんぽない)駅があったのだが、2021年3月12日に廃止になったらしい。
紋穂内辺りを歩いて回っていたらあっという間に夕食の時間になったので急いで宿に戻る。

ディナーは洋食スタイルで基本北海道、美深町の食材を使ったヘルシーな感じの料理だった。家庭っぽさもありつつオシャレ。

このハンバーグは胡椒が効いていてご飯が進む。また同時にお酒が欲しくなる美味しさがある。

ワインリストからアルゼンチン産のピノ・ノワールの赤ワインを注文してご飯のお供に。またオーナーの星野さんがいい話し相手になってくださって一緒にワインを楽しんだ。リーズナブルなのに味も香りもしっかりして美味しい。
星野さんは神奈川の小田原出身で元東京カレンダーの編集長で広告のコピーライターでも活躍してたらしい。やっぱりこの宿のブランディングやセンス、まとまり感がすごいのは星野さんの力が大きい。

〆は山崎のハイボールで。料理もお酒も美味しくて話も弾んですごく楽しい夜だった。最高の宿を見つけてしまったような気がする。
次は冬にも来てみたい。雪に埋もれた宿で何もせずワインを飲みながらのんびり本を読んでみたい。