EP008 Vladivostok

波は高くなかったのに、船は不思議と揺れる。潮流の影響だろうか。とはいえ揺れは強くなく、何より疲れていたのもあってぐっすり眠れた。目を覚ますと、すでに北朝鮮沖を過ぎ、ロシアの領海に入っている。到着予定はウラジオストク時間の17時(日本より1時間早い)。ここからがまた長い。

昼を過ぎるころ、ロシアの島々が少しずつ見えてきた。目的地に近づいている実感が湧く。気温もぐっと下がる。東海市では春のぬくもりだったのに、ここはもう東京の冬並みの冷たさだ。

ふと時計を見ると、電波時計がしっかり働いていてウラジオストク時間に自動で切り替わっている。じつはG-SHOCK選びで一度失敗(GW-M5610U-1BJFは液晶が暗すぎて実用にならず…)。それを聞いた友人が調べて、GBD-200-1DRをプレゼントしてくれた。本当に感謝しかない。

いよいよウラジオストクが見えてきた。行き交うコンテナ船の多さに、戦争の影響はあまり感じられない。

岸が近づくにつれて乗客もそわそわし、デッキには人があふれる。そして皆さん本当によくタバコを吸う。元喫煙者として気持ちは分かるが、それでも驚くほどの本数だ。

お、街並みの全景が見えてきた。あの有名な黄金橋も。

ウラジオストクからユーラシア横断をスタートするソンフンさん・ユワンさん親子にも出会う。ユワンくんは小6で、1年休学して旅に出るという。人生でかけがえのない一年になりますように。友だちのようで兄弟のような、本当に仲の良い親子で羨ましい。

スパソ・プレオブラジェンスキー大聖堂が「ここはロシアだ」と教えてくれる。船上から見る街は想像より都会的で、規模も大きい。

写真で見慣れたウラジオストク港が目前に。ここから本格的にユーラシア横断が始まると思うと胸が高鳴る。予定より1時間早い16時に到着――喜んだのも束の間だった。

ここから、ウラジオストク流の洗礼。入国の仕組みが独特で、まずは岸壁に降ろされたコンテナから全荷物を出して積み上げる(これだけでも相当時間がかかった)。その後、乗客が自分の荷物を見つけて持ち、イミグレーション(入国審査)と税関を通って入国する方式だ。

降りる順番は、①預け荷物なしのロシア人、②預け荷物ありのロシア人、③預け荷物なしの外国人、④預け荷物ありの外国人。覚悟して待っていたが、それでも進みが遅い。審査場のキャパシティにも課題があるのだろう。

しかもイミグレーションまでは階段で2階へ、外に出るにも階段を下る必要がある。重い荷物を抱えての移動は相当きつい。そこで、同じく車・バイクで来た6組で自然とチームを組み、協力して運ぶことに。それでも大変で、あれほど寒いと思っていたウラジオストクなのに汗びっしょりだ。

すべて終えて外に出たのは20時30分。到着から4時間半。これがロシアのオリエンテーションなのだろう。ロシア式の「待つ」「受け入れる」を少し学んだ気がする。そのおかげで仲間も増え、絆も深まった。

宿が隣同士の朴さんと同じタクシーでホテルへ向かい、チェックイン。今回のTeplo Hotelには「20時ごろ着」と伝えていたが、さらに1時間遅れ。支払いはクレジットカード不可、しかもまだルーブルに両替していない。翌日払いをお願いすると、快くOK。部屋が1階なのも助かった。

小さなホテルだが、清潔でセンスがよく、居心地もいい。バイク通関まで約1週間の滞在になるため、いつも以上に慎重に選んだ。Booking.comなど欧米系は使えないので、Yandexで調べてロシアの予約サイト「Ostrovok」を利用。サービスは他と遜色なく、使い勝手も良かった。

シャワーを浴びて夕食をどうするか考えていると、隣のホテルの朴さんから「遅くまでやっている韓国料理屋がある」と連絡。22時を回っている時間帯で開いている店は少ないが、行ってみることに。

まずはビール――まさかのアメリカ・バドワイザー。長い一日の後の一杯は格別だ。お疲れさま。

頼んだのは豚肉炒め。少し甘めだが美味しい。昼はカップ麺で済ませたので、今日初めての“ちゃんとした食事”が余計に沁みる。

朴さんは大学を定年退職後、車でユーラシア横断へ。モンゴルをはじめ多くの国を走った経験豊富なベテランで、アドバイスも優しさも山盛り。たくさんお世話になった。

店を出て会話しながら歩いていると、コンビニからソーセージを手に出てきたロシアの方が声をかけてくれた。夜景スポットを教えたいらしい。Yandex MapとGoogle翻訳で示してくれたのは「鷲の巣展望台(Орлиное гнездо)」。手にはSonyのミラーレス。写真好きとして“ぜひ撮ってほしい景色”だったのだろう。見た目は強面でも、話すと温かい――ロシアの人はそんな印象だ。

初日から、バイクなしでもアドベンチャー感はマックス。ここからどうエスカレートしていくのか、楽しみだ。

EP007 Eastern Dream

いよいよロシアへ渡る日。Duwon商船の担当者から「10時までに東海港3番ゲートへ」と言われていたので、少し余裕を持って出発した――が、その「3番ゲート」が見つからない。最初に「ここが港だろう」と入ろうとした場所は韓国海軍の施設(軍港?)。あぶない。さらに進むと港らしき施設はあるものの、看板はなく重そうな鉄柵のゲートが閉まっている。違うのか? もう少し先には「4番ゲート」の表示。え、どういうこと? さっきの閉まっていた所が3番? Uターンして戻り、前をうろうろしていたら中から警備の方が出てきて、名前を確認してゲートを開けてくれた。

中に入ると、内側からだけ見える「3 GATE」の英字表示……これは外にも書いてほしい。これから行く方は、S-OILのガソリンスタンドを目印にすると良さそうだ。

まずは未払いだったバイクの運送費を精算するため、Duwon商船の事務所へ。クレジットカード不可とのことで、現金ドルで支払い。料金は時期や情勢で変動が激しいらしく、今回は1,500ドル。戦争の影響でかなり上がっているという。

今回、Eastern Dream号でロシアに向かうのは、車4組、バイクは私とBMW R1200GSAの方の2組、計6組。全員がそろったところで、Duwon商船のスタッフから流れの説明がある。

まず、車両から荷物をすべて降ろす。ロシア側では車やバイクへの個人荷物の積載が禁止で、載っていると正式な輸入手続きが必要になり、時間も費用もかさむとのこと。

荷物を降ろして“素の状態”になったバイクで、スタッフ車の先導に従い税関エリアへ。いよいよロシアに渡るのだと思うと、胸が高鳴る。

手続きはシンプル。韓国税関が車体番号を確認し、釜山港で発行された書類を回収して終了。出ていくものに関しては韓国も概しておおらかだ。キーは挿したまま置いておけば、積み込み・下船時の移動はスタッフがやってくれるらしい。

バイクを預けたら乗船までは自由時間。乗船開始は14時。東海港には小さな売店がひとつあり、両替もできるが、それ以外はほぼ何もない。最寄りの食堂は徒歩10分ほど先の東海駅周辺まで行く必要がある。まだ11時半だったので、散歩がてら駅へ向かった。

東海駅前は港よりは人がいるが、それでも閑散気味。市庁周辺の今どきの韓国的な街並みに対し、こちらは“昔の韓国”がそのまま残っているような趣がある。

駅前のグルメストリートには食堂が5軒ほど並び、その中でいちばん辛くなさそうな「ソンジョン・カルグッス(송정 칼국수)」へ。実は韓国に来てから辛くて熱いものが続き、胃の調子がいまひとつ。今日はやさしいものが食べたい。

創業53年の老舗で、いまは二代目。地元で人気らしく、次々と客が入り、またたく間に満席に。危ないところだった。

注文は「マンドゥ・カルグッス」。韓国式うどんに餃子が入った一品で、珍しく胡椒のキレで味にアクセント。マイルドで実においしい。さすが53年の歴史だ。

港へ戻ると、下ろした荷物は「預け手荷物」として送る必要がある。船内へ持ち込めるのは2個まで。まず各荷物の重さを量り、重量シールを貼ってもらう。それを発券窓口へ持っていき、預け荷物の料金を支払い、搭乗券を発行。荷物はその場で預ける。ここまで来て、ようやく乗船。長かった。

今回の座席はEconomy Class(B)。日本のフェリーをイメージしていたが、少し違う。荷物置き場がほとんどなく、足元に置くと足が伸ばせない。手荷物2個までの制限は、このスペース事情ゆえだろう。

二段ベッドがずらりと並び、満席で人が多い。やや収容所感のある光景が、逆に旅の本格的な始まりを告げているようで、妙に高揚する。

朝から荷下ろしや移動で汗だく。まずはシャワーへ。シャワーブースは4つだけの簡素な造りで、シャンプーやボディソープはなし。さらにこの時間はお湯が出ず、水のみ。ただ、暑かったので水シャワーでもちょうど良かった。

後で知ったのだが、シャワーとは別に浴槽もあるものの、お湯は張られていない。代わりにホースの蛇口からはちゃんとお湯が出る。

大阪→釜山の船では「そこはもう韓国」だったように、東海→ウラジオストクの船内は「すでにロシア」。体格の大きい人たちや存在感のあるタトゥーを見ると、つい映画のワンシーンを思い出す。

客室では落ち着かないので共用スペースへ――が、同じことを考える人ばかりでどこも満席。仕方なくデッキに出て、風に吹かれながらビールを一本。風は次第に冷たくなっていく。北上している証拠だ。波も風も強くは感じないが、船はそこそこ揺れる。潮流のせいだろうか。船酔いの人もちらほら。

夕食はビュッフェで、韓国料理多め。味は普通においしい。ただし食堂への酒類持ち込みは禁止で、注文も不可。酔客で宴会化するのを避けるためかもしれない。食後、バーでビールを一本だけ飲み、就寝。揺れが心地よく、ぐっすり眠れた。耳栓は忘れずに。

長い一日だった。